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『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』が面白すぎて2020マイベストムービーとれそう。

毎年1月~3月はアカデミー賞もあるからか一番熱いシーズンだが、この映画が今のところ一番面白かった。

 

ネタバレなし。こういうのはネタバレなしで観るのがいいんだ。

 

gaga.ne.jp

 

公式サイトをはっつけたが、ミステリーサスペンスなのであらすじとかは読まない方が楽しいんじゃないかと思う。

 

この映画は、あの『ダ・ヴィンチ・コード』で有名なダン・ブラウン著ロバート・ラングトンシリーズの4作目『インフェルノ』の出版の際に行われたある驚くべき事実から着想を得て作られたものだ。

それは新作『インフェルノ』を世界中に同時に届けるため、また海賊版の流出を避けるために、各国から翻訳家を集めて地下に隔離し、翻訳作業をさせたというものだった。

 

ロバート・ラングトンシリーズといえば、『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』『インフェルノ』が映画化され、特に『ダ・ヴィンチ・コード』は日本でも非常に話題になった。一時期、テレビではレオナルド・ダ・ヴィンチを題材に特集を組まれまくっていたのを覚えている。

 

原作は残念ながら読んでいないが、映画は一応三作品とも観ている。とはいえ、今作の謳い文句は

 

ダ・ヴィンチ・コード」シリーズ出版秘話に基づく本格ミステリ

 

とのことなので、別にシリーズを知っていようがいまいが関係ない。こういう謳い文句でもなければ観客が釣れないのは悲しいことだ。

 

ことミステリーはネタバレをしてしまうと途端に作品の価値が落ちてしまうため、『インフェルノ』ではこのような措置が取られたのかもしれない。

 

そして今回の『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』で登場するのもミステリー小説だ。

各国から集められた9人の翻訳家たちは、地下の施設で世界的ベストセラーであるミステリー小説の最終巻の翻訳を任される。

そこで起きる事件とは?そして真実とは?というものだ。

 

事件は正直、あらすじとかチラシの裏とか見れば書いてあるが。公開されている情報すら書きたくないね!

 

この映画、

 

もうめっちゃくちゃはっちゃめちゃに面白かった。

 

ミステリーそのものを好むわけではないがそこにサスペンスが絡むともう大好物だ。

この分野では『ユージュアル・サスペクツ』が私の中の不動の一位である。

 

が、本作はそれに匹敵しないまでも、それに追いつかんばかりの面白さがあった。

 

ストーリーとしては、ミステリーながらも非常にわかりやすく、話が追いやすい。これは登場人物が翻訳家たち9人+αくらいしかいなく、舞台も地下施設という閉鎖された空間だからかもしれない。

普段ミステリーになじみがない人にも薦めたい。逆にミステリーになじみがありすぎると物足りないとなるのかもしれないが。私には十分すぎた。

フランス・ベルギー合作ということで、ハリウッド映画的な派手にポンポン進む映画というよりは、ずーーーんとずっしり進んでいく。それがたまらなくいい。そもそも最近フランス映画を観たいと思っていたのでそれも丁度良かった。

なかにはそのずーーーんと進む感じがまどろっこしくて、さっさと進めやという人もいるかもしれないが。うるせぇ、一生スティーブンユニバース観てろ。ティーブンユニバース自体は最高of最高。

 

またなんといっても本作の魅力は登場人物にある。

 

9人の翻訳家たちは性別も見た目も、当然性格もバラバラで、それぞれが個性的だ。全員魅力的であり、全員のことを好きになれる。ミステリー映画であるからには、こいつらの誰かが悪いやつかぁ?と思いながら観始めてしまうが、話が進むにつれてもうそういうこと考えられなくなる。

フリーゲームである『キミガシネ 多数決デスゲーム』みたいだった。ちょっと違うか。でもそう感じた。

 

話自体はフランス語で進むが当然9人は皆多国語を操れる。カコイイ。

ちなみに言語は

 

ロシア語

イタリア語

デンマーク

スペイン語

英語

ドイツ語

中国語

ポルトガル語

ギリシャ

 

一番好きなのはスペイン語の翻訳家。気弱そうなおじさん。中国語のおじさんも英語のお兄さんも好き。ドイツ語のおばさんも好きだし、ポルトガル語のお姉さんもロシア語のお姉さんも……きりがないのでやめよう。

 

最初こそ意識がまだ映画に向ききっておらず散漫で

「お腹が減っているときのポップコーンはMだと足りない。だがLだと多すぎる」

などと考えていたものだが(この散漫さのまま映画が、終わるときもある)、

話が進むにつれて何かを考える自分というのは消えた。

 

そこにあったのはスクリーンを観る目と、ストーリーを理解する脳みそと、映画だけだった。あと面白すぎていつのまにか指を噛んでいたのでその痛み。それすらもあとで気づいた。

前のめりになるのを必死に抑え(それでも背中が少し背もたれから浮いた)、心のどこに響いたのかもわからないままに目を涙でにじませ、ただ夢中になった。

 

エンドロールが始まったとたんに、声を押し殺して泣いた。目を覆い、ただ泣いた。

悲しいわけでも嬉しいわけでもない、ただ感動した。こんなにも面白いものを、私は観ることができた。多分あの劇場で一番泣いていたのは私だし、なんなら他の人は泣いていないかもしれないが。

 

今年に入って今作含めて8本新作映画を観て、昨年末には超話題のパラサイトも観て、スターウォーズだって観た。どれもこれも面白かった。

だがこの『9人の翻訳家』のように熱中し面白いがためだけに感極まって泣いた作品はなかった。

パラサイトやジョジョ・ラビットは前評判からそもそも期待度が高く、これはたしかに面白い!という気持ちになるし、スターウォーズのようなシリーズ物はそもそも何をされても最高だし、スティーブン・キングクリント・イーストウッドは尊敬に値するし。

そこへきての『9人の翻訳家』は掛け値なし色眼鏡なしでここまで面白いと思えた。それがただただすごい。

 

元々『9人の翻訳家』自体の優先度は低く、タイミングが合わなければ見れなくてもいいやくらいに思っていた。予告編も観たことが無く、なんとなくポスターを見て少し興味を持っただけだったから。(今思えば予告編を見なかったのもよかったのかもしれない、予告編って語りすぎることがあるから)

しかし無理をしてでも観に行ってよかった。

 

年に一本くらいは、こういう優先度はそんなに高くないけどふらっと観に行ったらどストライクで記憶に残る映画が観られるものだ。去年はそれが『マローボーン家の掟』だったが、今年はそれを遥かに上回った。

無理をしてでも映画は観るべきだ。

 

 

 

今週末にはアカデミー脚本賞にノミネートされているこれまたミステリーの『ナイブス・アウト』が公開される。

こんなにべた褒めしてしまうミステリー映画を観た後で果たして私は『ナイブス・アウト』を純粋に楽しめるのか?余計な心配が生まれてしまった。